半導体の大冒険PART II

こんにちは、「半導体の大冒険2」がスタートしました。

「実りあるスマート社会」の初回ということで、スマート社会とは?というところからご紹介したいと思います。新聞やテレビでも少しずつ聞くようになってきた「スマート社会」、みなさんもなんとなく聞いたことがあると思いますが、実際はどういうものなのでしょうか?

そこで、スマート社会を語るのに絶対に欠かすことのできない、一般社団法人 半導体産業研究所(以下、SIRIJ)の桑田さんにお話しを伺いました。

インタビュー

−初めまして。JEITAとしてはいつもお世話になっていますが、私個人としては初めましてです。本日はよろしくお願いします。

初めまして。なんだか緊張しますね。

SIRIJ 客員研究員 桑田 薫さん
SIRIJ 客員研究員 桑田 薫さん

−私も最初の取材なので緊張しています。どうぞお手柔らかにお願いします。では最初に、桑田さんとSIRIJについてお聞かせ下さい。一体どのようなことをされているのでしょうか?

大学を卒業して日本電気に入社し、最初にマイコンのソフトウエア開発に携わりました。その後、画像処理を行うためのカメラ用チップや携帯電話のアプリチップ(CPUとDSPを抱き合わせたもの)など、大規模なSoC(System on a chip)の開発にも取り組みました。
そういう意味では、ソフトウエアとハードウエアの両方で開発を経験していますが、専門はソフトウエアだと思っています。

そして、現在私が客員研究員として所属しているSIRIJは、産官学の間に立って、日本の半導体産業活性化のための企画・立案を行うと同時に、半導体業界のシンクタンクとして機能することを目的とする組織です。

今回、取材のテーマにしていただいた「スマート社会」についても、半導体業界に限らず様々な業界の方々と議論し、総意としてまとめた上で、多方面に情報を発信しています。

−まさしく、私たちが求めていた一つの答えがここにあるわけですね?なんだかワクワクしてきました。早速で恐れ多いですが、ずばり「スマート社会」とは何なのでしょうか?

今まで皆さんが良く耳にされている「スマート〜」という言葉は、社会インフラをベースに様々なモノがつながり、それらが情報のやり取りをすることで、賢く制御・管理できるというイメージではないでしょうか?

これらがより高度に組み合わさった「スマート社会」実現に向けて、SIRIJは半導体業界や関連業界の方々と一緒になって進むべき方向について議論しています。そこでの「スマート社会」は、「困っていることや社会的課題を解決できる社会」と決められています。

様々な業界の方々と議論していますので、かなり抽象的な形になったようにも思えますが、困っていることや社会的課題を具体的に言えば、エネルギー問題に交通渋滞、災害やプライバシーに対する安心安全、安定して食品を得るための農業・物流など例はたくさんあると思います。

図1, 解決すべき社会的課題
図1, 解決すべき社会的課題

−社会的課題を解決するところがポイントですね。では、実際にどういった課題を解決できるのでしょうか? 私たちの身近に存在するものなのでしょうか?

前出の社会的課題で考えてみますと、下図のようなものがあると思います。エネルギー問題の場合では、電気を無駄なく発電・分配し、効率良く使用できるようになります。この電気の使用を身近な住環境にあてはめれば、より高度に温湿度などの自動調整が必要最小限の電力で実現されるようになるでしょう。

図2, 「スマート社会」に求められるもの
図2, 「スマート社会」に求められるもの

さらに先、「進化したスマート社会」では、「スマート社会」に「意味理解」という要素が加わります。そこでは、システム自身が今起きている状況を収集したデータに照合し、先を予測して対処するようになり、より高度な安全や快適な生活を実現できるようになります。

図3, 「意味理解」がもたらす「進化したスマート社会」
図3, 「意味理解」がもたらす「進化したスマート社会」

−すばらしいですね。そんなにすごいものだと、やっぱり実現するには時間がかかるのでしょうか?

上図の「安定したエネルギー供給」「安心で安定した農作物流通」「快適な住環境」「健康維持と連動する医療」「災害から人を守る環境」「無事故と快適性を実現する自動車環境」などは2020年くらいで実現するのではないでしょうか?といいますのも、これらの課題解決は現時点でも少しずつ実現しています。
皆さんもご存じかと思いますが、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転、HEMS、植物工場などが良い例で、新聞などでも見かける数が増えています。

一方で、「スマート社会」が「困っていることや社会的課題を解決できる社会」であるとするならば、困っていることや社会的課題は人や場所によって変わりますよね。つまり、それを解決するための仕組みの進歩向上は常に必要ということです。私たちは、「スマート社会」のあるべき姿を追い続けていくんだとSIRIJでの業界企業の皆様との議論で見解が一致しています。

−なるほど。完成するものではなく、これからずっと進化し続けるものなのですね。実現するのに必要なモノは何なのでしょうか?そこで半導体は何を求められるのでしょうか?

様々な業界の方々と「スマート社会」について議論した結果、「意味理解」「無給電」「100年耐久」「自己成長」「インターオペラビリティ・ディペンダビリティ(どんなシステムとでも安全につながること)」が必要であるというところにたどり着きました。

図4, 技術の方向性「Technology Directions」
図4, 技術の方向性「Technology Directions」

「無給電」や「100年耐久」などは極論になっていますが、半導体業界以外の方はそういうものを求めているということです。私たちは、これらの5項目をスマート社会実現に必要な技術の方向性(Technology Directions)とし、様々な業界や企業と共有することで、新しい価値の創造を目指しています。
「社会」という大規模な仕組みを構築するわけですから、半導体業界のみならず、国も含めた、様々な業界が同じ方向を向かなければ「スマート社会」は実現できないと思っています。ハードウエアとソフトウエアの進化や標準化に加えて、エンドユーザーの求める価値に対応するアプリケーション提案をしていかなければなりません。

半導体業界は生産財の供給者の立場からもう一歩進めて、アプリ指向でエンドユーザーに新しい価値を創る為、関連業界の方々との連携活動を進めるプレヤーへ転身していくことが大切だと考えています。
なぜなら、「スマート社会」実現のキーデバイスとなるのが半導体だからです。
半導体は微細化と省電力化に優れたデバイスであり、このメリットは他にはないものです。半導体が普及・進化したことによって、様々な機器の電子化、パーソナル化(モバイル化)も進んでいきました。
「スマート社会」に必要なTechnology Directionsに対しても、半導体は全ての項目に該当しています。近い将来実現するであろう、人体に埋め込み脳の発する電気信号を代替えするマイクロチップ、これも現時点のテクノロジーでは半導体でしか実現できません。

図5, 半導体が創出する新ビジネス
図5, 半導体が創出する新ビジネス

半導体に限らず、業界が持つテクノロジーによって「スマート社会」はすぐそこまで来ています。ただ、実現させるためには、国・業界を飛び越えた交流や複合領域を理解できる人材がもっと必要だと言われています。近い将来を担う皆様には、心の片隅にでも、この気持ちを持っておいて頂ければ嬉しいです。

−ありがとうございました。今回、桑田さんにお話を伺ったことで、「スマート社会」をすごく実感できるようになりました。一つの業界だけでは実現できないというところもあり、今後いろいろな方に「スマート社会」についてお聞きする意義も感じることができました。
JEITAとしても、一個人としても、様々な課題解決が可能な「スマート社会」の早期実現に貢献しなければいけませんね。

桑田さんのプロフィール

1981年日本電気(株)に入社。マイコンソフトウエア開発に従事後、SOC開発を経てソフトウエア企画に従事。
2003年にNECエレクトロニクス(株)に移籍。
2010年ルネサスエレクトロニクスに移籍、現在マーケティング・インテリジェンス部門に在籍。
2011年より、SIRIJ客員研究員兼務。

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