半導体の大冒険PART II

今回は、 加速度センサーを活用したモニタリングによりインフラの老巧化をいち早く発見し、維持管理を行う手法を研究されている、横浜国大・藤野先生にお話しを伺いました。

インタビュー

−昨今インフラの老朽化がよく言われます。笹子トンネルの事故もあって、大変心配しています。

横浜国大・藤野先生
横浜国大・藤野先生

笹子トンネルの事故は本当に痛ましいものでした。

わたしの専門は橋なのですが、同じようなことが起きてはいけないと強く思い、壊れる危険性のある橋をいちはやく発見するモニタリング手法を研究しています。ただ橋は、――トンネルもそれに近いのですが――それぞれが単品、特注品です。ひとつひとつ設計がちがい、材料がちがい、施工がちがい、地盤条件や気象条件などがちがいます。ひとつとして同じものはありません。そこが難しい点です。

−モニタリングというと目視検査と打音検査が思いつくのですが、先生の研究はどのようなものですか。

センサーを使って振動や変位などをチェックすることで、壊れる危険性あり・なしをスクリーニングしようというものです。目視や打音は表面や表面近くの損傷を探り出しますが、もっと奥に損傷が潜んでいるかもしれません。また、目視や打音が橋の一部分に光を当てているのに対して、わたしは橋全体を包括的に捉えることを考えたいと思っているのです。

−具体的にはどのように行うのですか。

例えば横浜ベイブリッジくらいの大きさの橋であれば、数十個の加速度センサーを使います。それらを各所に据え付けて、中小の地震による振動データを取ってみる‥‥そうすると、ときに怪しいと思う数字が出てくることがあります。設計モデルから推定できる予測値とちがっているというケースもあるでしょうし、類似の条件で得られるデータと異なるといった場合もあります。設計で想定していないことが起きていたら、それは“要注意”ということです。

−加速度センサーというのは、スマートフォンの中にも入っているものですね。

そうですね。スマートフォンを縦から横に持ちかえたとき、それを察知するのが加速度センサーです。けれども、橋のモニタリングに使う加速度センサーは、スマートフォン用より通常はずっと精度の高いものが必要です。

−センサーを使う方法は、包括的に診断すること以外にも利点がありますか。

横浜国大・藤野先生

目視や打音は人間が行いますから、どうしてもばらつきが出ます。多くのひとが携わるとなると、当然ベテランもいれば新人もいますから。また、人件費もかかります。その点センサーによる方法ならば、客観性が確保できますし、コストも抑えられます。さらに、点検に要する時間も短くなります。わたしたちはいま、限られた予算のなかで全国にたくさんある橋を効率的に維持管理していかなければならない局面に立たされています。そう考えると、情報技術を駆使していかなければならないと思います。

−情報技術を使ったインフラの維持管理に半導体が役に立っているとすれば、うれしく思います。

加速度センサーは、物が動いたことを感知するしくみによっていくつかのタイプがありますが、最終的には半導体で信号処理しますね。また、目視に替わって最近では画像処理技術がかなり進んでいますし、打音は赤外線で代替できるようにもなってきています。それらについても制御を行うのは半導体ですから、計測器を開発するうえで半導体はキーパーツです。土木の立場からすると、小型化はあまり求めていません。けれども、性能がよくなることと価格が安くなることは歓迎ですので、これからもよりよい半導体を作っていっていただきたいと思います。

プロフィール

1972年 東京大学工学部卒業
1976年 ウォータール大学土木工学科博士課程修了、同大学博士研究員
1977年 東京大学地震研究所助手
1978年 筑波大学構造工学系助手
1982年 東京大学工学部助教授(土木工学科)
1990年 東京大学工学部教授(土木工学科)
2007年 紫綬褒章受章
2013年 東京大学名誉教授
2014年 横浜国立大学先端科学高等研究院上席特別教授(社会インフラストラクチャ部門)

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