みなさん、こんにちは。「半導体の大冒険」隊長の南部ユーコです。
これから、半導体のフロンティアで頑張っていらっしゃる方々のご活躍を、インタビューして、皆さんにご紹介してまいります。
トップバッターは、ウェブでの発言も活発な中央大学の竹内教授です。
−「半導体の大冒険」インタビュ−へのご協力ありがとうございます。本日は、よろしくお願い致します。
こちらこそよろしくお願いします。
−先生のご著書「世界で勝負する仕事術」を、大変楽しく読ませて頂きました。
ありがとうございます。お蔭様で本は好評を頂いているようです。一時、アマゾンでも第2位にランキングされました。第1位は「AKB48の写真集」で、これにはかないませんでしたが。
−ご本によると、東芝の主力事業の一翼を担うフラッシュメモリの事業の立上げが先生のル−ツということですね。
はい、今でこそフラッシュメモリは大きな事業になっていますが、一時は多値メモリという、現在では標準的な大容量技術の研究開発は中止になりました。事業自体が危機存亡で、将来技術の開発などできなかったのです。そんな中、製品の立ち上げをしつつも、少人数であきらめずに隠れて多値メモリを開発を続けました。何とかものにしたいと夢中で頑張り続けた結果が実り、フラッシュメモリはこのような大きな産業に育ちました。
−その後スタンフォ−ド大に社内留学されMBA(経済学修士)を取得されていますね。
技術開発だけでは足りない、技術者が経営についても学ばなくては世界で勝っていけない、との思いで、チャレンジしました。でもスタンフォ−ドのMBAというのは、ビジネススクールの中では世界の最高峰。技術者の英語力のレベルではまったく歯が立たず、何とか2年間で卒業することができましたが、当時は相当につらかったですね。我ながら、ずいぶんと”跳んだ”ものです。あの時の経験があるので、”跳ぶ”のが怖くなくなりました。また、ここまでは跳べるけど、これ以上は跳んでは危険ということを、肌感覚でわかるようになりました。
−MBA留学から戻られて、フラッシュメモリのビジネスで世界中を飛び回った後、大学に転身されましたね。
大学に移った際は、何も基盤がなくて、これもまた大変でした。ゼロからの立ち上げです。周りの人に色々助けて頂き、国プロも獲得でき、何とか竹内研を軌道に乗せることができました。あきらめて後ろに倒れるとき、世間は大変冷たいものですが、必至で頑張って、のけぞって前のめりに倒れそうになるときは、誰か助けてくれる人が現れるもの、ということを実感しています。世の中は、そんなに捨てたもんじゃないと。
−大学に移られてからも新しいテ−マにチャレンジされていらっしゃいますね。
はい、当初は、メモリの低電力化技術などに取り組みましたが、最近はだんだん半導体そのものからは離れ、クラウドを支えるデ−タセンタ−のサ−バシステムやデータベースのソフトエア、更に、IT技術を使ったサービスに研究の対象が移ってきています。いわゆる、ビッグデータの活用のために、市場規模が増大し続けている分野であり、大きな将来性を感じます。種々のアプリケ−ションの実行に適したサ−バのア−キテクチャには大きな刷新の可能性があると考えています。ソフトウエアの研究とは言え、原点である半導体メモリに関する技術・知識が強みになっていて、開発が進む新型の半導体メモリをア−キテクチャの革新に生かすのがポイントです。
−新たな分野へチャレンジするのは難しさもあると思いますが。
既存分野を延長線上で戦っていても、競争は激化し、段々と勝つのが難しくなります。それよりは、新たな領域に戦いの場を移すほうが、勝つ確率は高くなる、と考えています。ひとつのところで消耗戦をやるより、人が集まってきたかな、と思うと、別のところに”跳び”たくなるんですね。人それぞれで、ひとつの分野をとことん掘り下げて、職人芸的な仕事を残すタイプの人もいますが、私はどんどん戦う場を変えていくタイプです。新しい分野に挑戦するとき、わからないことは、その道の専門家を捜して、素直に教えを請うています。現在の研究室では、ミドルウエアなどのソフトに関する知識と、ReRAMやPRAMといった新型の半導体メモリの特性解析とを結びつけ、最適なサ−バシステムのア−キテクチャやサービスを提案しようとしています。
−デ−タサ−バの処理系は、インテルのプロセッサの独壇場かと思いますが。
インテルのプロセッサに戦いを挑むつもりはありません。ビッグデータのリアルタイムの解析などの用途では、現状では、プロセッサが高速になっても、システム全体の性能はさほど向上しません。低速なストレージがボトルネックだからです。ストレージにフラッシュメモリや新型のメモリを導入することに加え、データのトラフィックを最適に制御するソフトウエアを開発することで、システム全体の性能を劇的に向上するのが狙いです。
−ソフト、ア−キテクチャ、新型メモリの特性解析、などなど、幅広い知識が必要で、研究室の学生さんにとっては、ついていくのが大変ではないですか。
おっしゃるとおり、幅広い横断的な知識を得るのは、学生には短い期間では無理です。竹内研で、全体を押えているのは、私とごく少数のメンバーだけで、経験の浅い学生には、ソフト、新型メモリの特性解析など、限られた領域のテ−マを、個々人の適性をみてやってもらっています。若い頃は、まずひとつの専門を深堀して極める経験が必要です。ひとつ専門を極めると、そこから関心のある領域を広げていくことが比較的容易になるものだと思っています。
−新たな挑戦には、国プロでの支援が付いていますね。
国プロの獲得においても、”跳ぶ”ことが重要です。従来の延長線上の保守的なテ−マでは、国プロの採択が難しくなっています。”跳んだ”テ−マ設定をして提案書を書き、採択されてから、実現するための手段を必死で考え、足りないところは協力者を見つけてきて、何とかものにする、ということさえあります。現に、私の専門は元々は回路設計ですが、今の研究の中心は、大学に来てから始めたソフトウエアなのですから。こうして飛躍した目標のテ−マで国プロを成功させるとそれが実績となって、次の国プロ申請でも、「よし、こいつの言うことなら信用してみるか」ということになるでしょう。この辺は、米国のシリコンバレ−のベンチャ−企業のやり方とよく似ていると思います。彼らも、一見無謀とも思えるような目標やビジョンを掲げて、ベンチャ−キャピタル(VC)から資金を集め、その後に走りながら必要な人材を集め、不可能を可能にしていく、というスタイルです。これに引き換え日本は、慎重すぎて、石橋を叩いて、渡らない、ということが多いように思います。もっとみんな”跳びましょう”と言いたいですね。自らを追い込んで、必死に頑張らざるを得なくする。そこで頑張ることでしか、未来を拓くことはできないのではないかと思っています。
−本日は、大変元気の出るお話をありがとうございました。
こちらこそ、ありがとうございました。
竹内健(たけうちけん)工学博士。
1993年 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了。(株)東芝に入社。
フラッシュメモリの開発に従事。
2003年 スタンフオード大学ビジネススクール経営学修士課程修了(MBA)
2007年 東芝を退社し、東京大学工学系研究科准教授
2012年 中央大学理工学部教授