半導体の大冒険〜南部ユーコ冒険隊のニコニコインタビュー

半導体冒険隊長の南部ユーコです。

半導体の大冒険では、半導体ワールドの未知のフロンティアを開拓されていらっしゃる方々にインタビューして、その最先端での活躍を紹介します。

今回は農業の分野でITを使った効率化の研究をされている二宮正士先生です。西東京(田無市)の東京大学附属生態調和農学機構にある静かなキャンパスに伺いました。

インタビュー

−先生の研究背景を簡単に教えて下さい。

もともと私の専門は「植物育種学」です。作物をより良く改良するための研究分野です。
育種では、作物の評価をしなければいけないのですが、作物の評価は、ものすごく定性的な部分が多いのです。ブリーダ(育種家)が経験と勘で「えいや」と選んでいる部分がかなりあります。収量など計量できるものは別として、病気に強い、味が良い、形が良いなどの育種を分別する際、多くは、定性的で経験と勘に頼ってやっています。「全てを定量的に評価するようにしよう」という発想で研究を始めました。

農業分野のITを使った効率化

−どの様な定量化の手法を用いたのでしょうか?

もう25年ほど前の話になります。まだとても高価でしたが、イメージプロセッサが出てきて画像の定量的解析が出来るようになりました。ただ、デジカメはなかったので、アナログの写真をスキャンしてデジタル化した時代です。それを使って形、色を評価していく仕事から始めました。画像解析ですね。例えば作物の形は収量などに影響するので品種改良の対象になりますが,育種家の目で判断しています。その判断には長い経験が必要です。そこで、ダイズを対象に経験の長い複数のブリーダに数千個体を見てもらい形の良さについて3段階評価をして貰う。そして全員の意見が一致した数百個体だけをデータとして、画像解析や当時急速に発展していた計算機統計学を駆使して、プロの育種家の目を計算機で実現しました。10年前には、98%の精度で人の目の判断が当たるようになりました。

−素晴らしい成果ですね。

最近は、ゲノム解読の進歩に伴い、画像解析のこの分野への応用が脚光を浴びています。例えば、イネの全ゲノム解読には莫大な時間と費用が使われていました。多くの国が参加した国際チームで10年間かかって解析ができる様な状況でしたが、今や一台の機械(DNAシーケンサー)があれば、わずか半日で解析できる日が近づいています。
そうなると何が課題になるでしょうか?遺伝子を調べても、それがどのような機能を発揮(発現)するかという「対」がないと意味が無い。ところが、その機能を調べる方は相変わらず機械化されていないのです。Phenotyping(フェノタイプ)がgenotyping(ジェノタイプ)に追いつかなくなって、ボトルネックになって来たということです。多くの機能が人間の目で調べられていることから、画像解析による高速化が期待されているのです。

(用語解説)
・genotyping: ゲノムを読み取ること
・phenotyping: 発現した現象・形を読み取ること
 → genotypeとphenotypeとが「対」になるところに新たな発見がある。

−この成果をどの様に活用しますか?

農学者としては世界中の農業に真の持続性をもたらす貢献をしたいと思います。真の持続性とは生産性を確保する一方、水などの資源を守りながら環境に優しく安全で安心な作物をずっと生産できる農業ということです。さらに最近は、気候変動下でも安定生産するという命題もあります。非常に難しい問題で、多くの条件をクリアする必要がありますが、作物の改良は重要な要因です。さらに情報科学を駆使して多くの要因を最適化して持続性を実現することにも挑戦したいです。日本の農業は品質重視で、必ずしも生産性を求めていませんが、世界全体では人口増に伴い食料がますます足りなくなると言われています。かといって20世紀のような多投入の農業を続けるわけにはいかないのです。

−環境負荷への影響について教えて下さい。

緑の革命で窒素や農薬を大量に使う事になりました。これは、ものすごく環境負荷が大きいです。やり過ぎると作物は100%の窒素を吸収出来ないので環境に流れて行く部分があります。欧州では、20年ほど前から農業による水質汚染の問題も起きています。また、化学物質で土壌が疲弊してしまい、生産性を低下させます。生産性一辺倒で水資源の収奪の問題も起きています.難しいことですが、「低投入でいかに収量を上げるか」が21世紀農業のあるべき姿なのです。

−農業のための世界規模の活動について教えて下さい

ベトナムの子供達がセンサーの役割をする取組みを紹介します。
持続的農業実現には農民が正しい知識を持っていることが重要です。ただ、途上国では文字が読めない人が多く、肥料をどの程度与えるか等正しい情報の伝達ができないことがしばしばです。そのため、化学物質で環境が汚染される事態もしばしば発生しています。一方、子供達は学校に通っており文字が読めます。携帯電話もPCもすぐに使いこなします。そこで、子供達を介して親に知識を伝達する仕組みを考案しました。子供達がインターネットを介して専門家とやりとりし、親にアドバイスを伝達することで、親の農民が直面している課題解決をしようというものです。
その中で子供達に、センサーになってもらう事を考えました。アナログの温湿計や、イネの葉の色を見る色チャート、イネの高さを測るメジャーなどを与え、携帯電話のSMSで情報をサーバに送ってもらいます。病気などが発生すれば写真を撮って送ることもできます。専門家はその情報を使ってより的確なアドバイスをすることができます。まだプロジェクトは進行中ですが、単に知識の伝達にとどまらず、IT普及など子供達が農村開発に貢献できる新しい可能性を見いだしています。

−半導体への期待を教えて下さい。

農業で使える安価で扱いやすいセンサーが欲しいです。とくに、途上国で子供達とやったプロジェクトから、全部を自動化しなくても人間の機能も融合するメカニズム、つまりアナログとデジタルがうまく結びつくモデルに将来の可能性を強く感じています。やはり人間が動き回れるというところがすごいですし、メインテナンスフリーです。例えば、子供に持たせるセンサーがほしいですね。しかも安いものです。首にぶら下げながら動き回れるものです。

プロフィール

1977年 東京大学農学部卒
1982年 東京大学農学系研究科博士課程修了 農学博士
1983年 東京大学農学部生物測定学研究室助手
1991年 農林水産省農業環境技術研究所データ解析システム研究室室長
1996年 農林水産省農業研究センター研究情報部上席研究官
2001年 独)農業食品産業技術研究機構中央農業研究センター・チーム長
2005 年 同・情報研究部部長
2006年 同・研究管理監
2010年 東京大学大学院農学生命科学研究科教授

1996〜2010年 筑波大学連携大学院教授(兼務)
2005〜2009 年 同先端農業技術科学専攻専攻長

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