半導体冒険隊長の南部ユーコです。
半導体の大冒険では、半導体ワ-ルドの未知のフロンティアを開拓されていらっしゃる方々にインタビュ-して、その最先端での活躍を紹介します。
NPO法人WIN(ウェアラブル環境情報ネット推進機構)を率いて大規模な研究を推進しておられる板生清先生にインタビューを行いました。東京有楽町にあるWINのオフィスに伺いました。
−先生の目指している研究の目的について教えて下さい。
人間を取り巻く環境を分析して、人間ができるだけ快適になれる様な環境を提供すること、言い方を変えれば、センサーネットワークの世界で「人間の幸せ」を目指しているという事になりましょうか。
−具体的には、どの様な事になりますでしょうか?
万物は情報を発信しています。ここで言う「万物」とは、人間、自然、人工物を含む「地球上の存在物」です。万物は様々な情報を発信していますが、人間はこれらの情報を必ず しも、十分に検知できていません。万物が発信する情報と人間の認識の間の界面(インターフェース)をいかに克服するかが重要なテーマになります。
−インターフェースの考え方について教えて下さい。
インターフェースを克服するには、万物が発信する情報を人間が認識できる情報に変換する必要があります。人間、自然、人工物などが発する情報とは、例えば、位置情報生理情報、化学物質、圧力、温度、音、光などがあります。
センサーによって検知された情報をA/D変換してデータ処理(プロセッシング)し、ネットワークを介して、クラウドまでつなげたいのですが、課題もあります。
まずは、センサーのデータから対象の何が分かるのか、それを外部から制御するにはどうすれば良いかという知識が重要で、我々が専門家と議論して得られた知恵を生かした形でシステムに反映させています。一方、この情報をクラウドにつなげるために、各種センサーと超低消費電力の無線通信機能をあわせもち、エネルギー源を加えればセンシング機能付きのウェアラブル端末を構成できるチップが欲しい所です。これこそ次世代の半導体として期待したいものです。
−具体的な研究事例について教えて下さい。
半導体ベースの13gの生体センサーを開発し、微弱無線でスマートフォンに人間情報を伝達することに成功しました。これにより人間の交感神経・副交感神経の状態を知ることが可能になりました。
さらに「局所冷房」です。ペルチェ素子を用いて首を冷やします。センサーで人間の状態を検知し、それにより最適な温度環境を提供するという考え方です。人間の深部体温が37.1-37.4度になるように血流を冷やして脳を冷やし、体調を良好な状態に保つ効果があります。
エアコンの様に部屋全体を冷やす必要がないので1/10以下の省エネになりますし、個々人に合わせた最適な環境が作り出せるので、合理的とも言えます。
−WINの活動について教えて下さい
「万物は情報を発信する」という世界観のもとに、人間、人工物をも含んだ地球環境から発信されている様々な情報をセンシングし、処理(プロセシング)し、この情報に基づき指示(アクチュエーション)するという一連の流れの研究を行っています。人間そのものの情報に関するヘルスケアシステムに加えて、自然環境防災の分野にも研究の対象を広げているところです。
東京大学名誉教授。工学博士。
1968年 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。同年日本電信電話公社(現:NTT)入社。
1974年〜1975年 米国MIT研究員、NTT記憶装置研究部長、研究企画部長等を歴任。
1992年 中央大学教授。
1996年 東京大学工学系研究科教授。
1999年 東京大学新領域創成科学研究科教授。
2004年〜2006年 東京理科大学総合科学技術経営研究科教授・研究科長。
2006年より現職。2008年東京理科大学総合研究機構 危機管理・安全科学技術研究部門長(併任)。2004年 精密工学会会長。
NPO法人WIN(ウェアラブル環境情報ネット推進機構)理事長
独立行政法人科学技術振興機構「先進的統合センシング技術」研究領域総括
文部科学省安全安心科学技術委員会座長
環境プランニング学会代表理事
人間情報学会代表理事
著書に『コンピュータを「着る」時代』(文春新書)など多数。