半導体冒険隊長の南部ユーコです。
半導体の大冒険では、半導体ワ-ルドの未知のフロンティアを開拓されていらっしゃる方々にインタビュ-して、その最先端での活躍を紹介します。
今回はソニーを定年退職されたあと、デジタルデータ保管ほために各地を飛びまわっていらっしゃる小林敏夫先生です。
−小林先生はこれまで半導体とどのように関わってこられましたか。
大学を出て電電公社(現在のNTT)に入ったときからずっと半導体の研究をしていますが、1998年にソニーへ移ってからはメモリに携わっていました。現在は大学で学生に半導体を教えるかたわら、超長期保管メモリの研究をしています。
−超長期保管メモリとはどういうものですか。
現在一般に使われている半導体メモリは、目の前のデータを処理することが主眼で、長期的な保存は考慮されていません。これに対して保管性を重視したメモリが超長期保管メモリです。保管とは「保存し、いつでも読み出せる状態にしておくこと」との意味です。できれば1000年データを持たせたい。1000年後の人々でも読み出せ、内容を理解できるようにさせたい。いわば「千年メモリ」です。
−どうしてそれを研究しようとされたのですか。
人間の活動の記録は、文書も音声も画像もみなデジタル化されてきました。そのほうが便利だったからです。世の中のあらゆるものを0と1に変換する方法は、一見まだるっこしく思えますが、みるみるうちに処理スピードが速くなり、扱うデータ量が多くなり、機器は小型化し、なによりも安くなりました。それを蔭で支えた一番の原動力が半導体の進歩(高集積化)です。そうであれば今度は、そういったデジタル化されたデータを未来に残していく手段を提供する責任が半導体にはあると考えたのです。
−現在デジタルデータの保管はどうなっているのでしょうか。
デジタルデータを保管するものとしてハードディスク、ブルーレイ等の光ディスク、半導体メモリといったものがありますが、現状ではいずれも数十年しか持ちません。このままではデジタル文化遺産を遠い未来へ残そうとすると、5年ないし10年ごとに新しい記録媒体とシステムに移し換えるリレー式の作業をしていかなければなりません。しかしこれは大変な作業で、手間や大きな費用負担を考えるといつまでやり続けられるか分かりません。
−心配になってきました。解決策はありますか。
半導体メモリで解決が可能だと考えています。SDカード等の中で使われている半導体メモリは、本来その物理的原理と中の素子を形作っている材料が極めて丈夫なことから、現在ある記録媒体のなかでも最も長期保管に適しているものです。そのポテンシャルを生かし、これに工夫を加えることで千年メモリを実現したいと思っています。
−どのような点が課題ですか。
例えば、現行のメモリはその内部に金属を使って電気を通す線があり、0か1かの電子情報を読み取っていますが、金属は長い間には腐食しますから、何か手を打たねばなりません。もっと大切なことは、デジタルデータは0と1の羅列でしかないため、それを文字や音や絵に復元する手立てが将来もまちがいなく存在するようにすることです。そのしくみ作り(標準化)はまだこれからです。
これらの課題をクリアして、半導体が人類の文化、科学に関する知見、歴史の継承にも貢献できることを願っています。
1974年 日本電信電話公社(現NTT)入社。電子ビーム露光技術などを用いた微細LSIデバイス製造プロセス開発等に従事。
1998年 ソニー入社。不揮発性メモリの技術開発、商品化を担当。
2009年 ソニー定年退職。この間2001〜2003年千葉大学非常勤講師。
2010年 神奈川大学非常勤講師。社団法人日本工学アカデミー会員、プロジェクト「記憶の保管性」幹事。文部科学省科学技術政策研究所科学技術動向研究センター調査員。
2010年10月〜2012年9月 電子情報通信学会超長期保管メモリ時限研究専門委員会委員長。