半導体の大冒険〜南部ユーコ冒険隊のニコニコインタビュー

半導体冒険隊長の南部ユーコです。

今回は、ベンチャー企業特集です。

「慶應藤沢イノベーションビレッジ」に本社があり、GPS受信機やカーボンナノチューブなど高度な半導体応用技術の開発を得意とされています「スペースリンク社」にお伺いしました。

インタビュー

−初めまして。半導体を応用した機器開発を行っていらっしゃるベンチャー企業とお伺いしてまいりました。

ようこそいらっしゃいました。ここ藤沢の本社で、宇宙と民生用のGPS受信機系の開発を行っています。そのほかに、ナノテク研究室も持っており、こちらではカーボンナノチューブを使った応用製品の開発をしています。資本金は1000万円、社員は現在13名、これが会社の概要です。

インタビュ-に応じる板生先生

・中央:阿部俊雄 代表取締役社長
・右 :阿部晃城 専務取締役
・左 :佐藤泰助 社長付 開発・製造部

−宇宙用のGPS受信機ですか。

最初に開発したものは、人工衛星などで使われる標準的なGPS受信機です。NEDO(独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「SBIR技術革新事業(中小企業技術革新制度)」から資金を得て開発しました。ベンチャーにとって、このような国の支援はありがたいですね。

−現在はどのようなものを開発中なのでしょうか。

マルチGNSS受信機(Global Navigation Satellite Systems:全地球航法衛星システム)というもので、米国、EU,中国,日本のすべてのGPS衛星の方式に対応するレシーバです。ハードウェアの設計は終わり、もう少しで完成するところまで来ており民生用への展開を考えています。

−すべてのGPS衛星に対応できると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

測位精度を今の±10mから±1m以内まで上げることができます。チャネル数も多くなるのでビルの谷間や森の中など、どこでも受信出来るようになります。

−それはすごい、完成が楽しみですね。どのような開発からこのような成果が生まれるのでしょうか。

FPGA,マイコン,メモリなどの半導体を使ってLSIボード環境からパッケージまでの開発を行い、開発プラットフォームを各種研究者に提供しています。このように全てを網羅した開発環境を提供するところは日本では他にはありません。大学や、研究機関の研究者へ場を提供することで、それぞれの専門分野の方が色々な測位アルゴリズムの開発を行えます。大企業とは異なり、少ない人数でカバー出来るのが特徴です。面白いアイデアのものが一杯あり、その中から商品化も考えます。アプリケーションはまだ95%が眠っています。準天頂衛星プロジェクトが日本の宇宙開発における最重要プロジェクトとなりました。今後は、測位衛星を利用したアプリケーションが広く行き渡ることでしょう。

−マルチGNSS受信機が完成された後、どのような展開をお考えですか。

色々な応用を考えています。単に精度を上げるだけでなく雲の水分量を測定して天気予報に反映させる「GNSS雲レーダ」。アンテナ間の距離差をミリ単位の正確さで計測するGNSSコンパス、今まではジャイロを使っていましたがこれが必要なくなります。津波などの大波からの電波の反射波を受信する「波浪監視GNSSレーダ」。これらはほんの一部であり、さまざまな応用のアイデアがあり、それを実現したいと考えているところです。

−応用技術がどんどん広がりますね。

もうひとつわが社には特徴ある技術があります。カーボンナノチューブを応用した家庭用の蓄電デバイス、エネルギーサーバーです。キャパシタ部分にカーボンナノチューブを使います。会社設立時より開発して来ましたが、最近になってコスト的にも商品になるものが出来て来ました。鉛電池はリチウムイオン電池に比べて性能が劣りますが、カーボンナノチューブキャパシタでそれをカバーします。ハイブリッド型です。発火爆発の危険は全く無く、安全性が高いという特徴があります。深夜電力で充電する動作をタイマで自動的に行い、電気代を大幅に削減できます。またリチウムイオン電池より30〜40%小さく出来ます。

−なるほど、家庭用の蓄電デバイスの課題解決に大いに期待できますね。

追記

2013年1月18日の日本経済新聞に、スペースリンク社のカーボンナノチューブ新型蓄電池が「劣化しにくい小型蓄電池」という題で掲載されました。従来のリチウムイオン蓄電池に対する優位性や、スペースリンク社自体についても大きく取り上げられました。

プロフィール

2004年5月:スペースリンク株式会社設立
2008年4月:革新的蓄電素子の調査研究を行いCNTキャパシタを試作完成。日本の衛星搭載用モデルを衛星メーカから受注して製造し納入。
2009年4月:CNTアクチュエータで世界初の二軸駆動機構を開発し納入。 衛星追尾用望遠鏡の追尾系に組み込まれて性能を発揮し国際学会に報告。
2010年4月:CNT積層キャパシタを開発。
2012年1月:自社開発でCNTハイブリッド蓄電装置の開発を開始。同年12月に試作機が完成し2013年2月に初納入。
2012年1月:JAXA殿のロケット用GPS受信機を受注し、大型用と小型用の標準的なGPS受信機として採用。
2012年1月:マルチGNSS受信機を民生の商品として開発を開始した。
2013年1月:蓄電装置の営業活動を展開し、量産体制の構築を開始した。

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