半導体技術委員会では、昨年に引き続き今年度で第4回目となる標記セミナーを開催しました。これまでは標準化戦略のセオリーを学び社内に浸透させることを主眼にしてきましたが、4年目を迎える今回は、各社が実際にどのように標準化戦略を実践しているかに焦点を当てた内容で実施されました。 それぞれの発表では、トップの迅速な意思決定あり、逆にアンダーザテーブルでの奮闘あり、幸運を引き寄せた成功あり、思い通りにならない苦戦あり、と生々しい実例が紹介され、多数の参加者から「大変参考になった」と好評を博すことができました。
興味深い取組み事例が報告された標準化戦略セミナー | 特別講演: ローム 上村卓三氏 |
昨今、WTOにおける標準化関連協定の制定や中国の独自標準化の推進、標準化を武器に莫大な利益を上げるQualcomm社のような企業の出現など、標準化を巡る経営環境が大きく変化し、標準化戦略の重要性が高まっています。このような背景から、本セミナーは企画・実施されてきました。
今年度は、新規ビジネスの開拓に当って行われている標準化戦略の取組みについて、会員企業3社から発表を頂き、それらをベースに議論が行われました。
まず、ロームの上村卓三氏(当初予定の高須秀視常務取締役が急にご都合が悪くなり、代理で登壇)より特別講演として、ロームにおける様々な新規ビジネス創出の取組み事例が紹介されました。
高須常務取締役研究開発本部長の卓越したリーダーシップのもと、シリコンバレー時代に培った海外に広がる人脈を活用し、自社にない技術を提携やM&Aや産学連携により取り込んできたオープンイノベーションと垂直連携が基本戦略になっています。
ドイツのSiCウエハーメーカを買収したり、20億円をかけ中国精華大学内にローム記念館を建設するなど、大胆な施策を打たれている点が印象的でした。
事例紹介1: ルネサスエレクトロニクス 友田嘉幸氏 | 事例紹介2: 東芝 笠原章裕氏 |
続いて、事例研究として、ルネサスエレクトロニクスの友田嘉幸氏より、USBの標準化推進における取組みが紹介されました。 友田氏は、最初のUSB1.1からUSB2.0、USB3.0と16年間にわたりその標準化に取組んでこられたとのこと。USB3.0では、世界初の製品化とともに、普及推進のためにいろいろな活動を実施。 それにより接続性のアップの手法がブラックボックスとなり、ホストコントローラで7割のシェアを握る強いポジションを獲得することになった秘訣と明かしてくれました。 オープンとクローズの使い分けという標準化戦略のセオリーを体現した好例と言えます。
続いて二つ目の事例研究として、東芝の笠原章裕氏から、電子書籍の世界動向を踏まえたSDメモリカードの標準化の取り組みが紹介されました。 電子書籍にはNANDフラッシュメモリが大量に使用されるので、NANDのメーカとしては電子書籍ブームは大歓迎。 一方、SDカードに違法コピーが横行するのは防ぐ必要があるのを感じ、違法コピーを防止するSDカード規格作りにコンソーシアムを作って取組んできた、とのこと。コンテンツ入りのSDカードの書店販売など新しいビジネス形態を想定。 ただ誤算は、タブレット端末にSDカードスロットがないことと、コントロールするドライバがOSに実装されていない点。 標準化の普及には、もっと大きな視点で関係者を捲き込んでいく努力が欠かせないと教訓を語っていらっしゃいました。
最後に全体ディスカッションでは、このセミナーを企画した標準化戦略WGの飯田主査リーダーの司会のもと、特別講演と事例紹介の内容について、参加者から活発な議論が交わされました。
本セミナーを通じて、教科書的な戦略論に留まらない実践的な洞察を深める機会が提供できたのではないかと考えています。
半導体技術委員会としては、今後も、標準化戦略の浸透を図るべく活動を展開していく所存です。
目的:
1.新規ビジネスを開拓するにあたっての標準化戦略の事例を理解する。
2.標準化戦略の社内活用の可能性・阻害要因を検討する。
主催: JEITA 半導体技術委員会
日時: 2012年2月23日(木) 14:00-17:30
場所: JEITA 416会議室
基調テーマ:新規ビジネス開拓のための標準化戦略
プログラム :